もりハグ!広場

森の価値を次の世代にリレーしていく!

福岡「いとなみ」藤井芳広さん × 奈良「森庄銘木産業」森本達郎さん(聞き手:須磨佳津江さん)

藤井芳広さん
NPO法人いとなみ(福岡県糸島市)代表理事。糸島市は、森と川と海のつながりや循環が見える町。糸島の自然資源を暮らしの中で活かして次世代に残していくため、循環型の地域モデルを作りたいと、大人も子どもも一緒に楽しく活動中!森や自然を大切にする人を増やすことが目標だそうです。

森本達郎さん
1993年生まれ。森庄銘木産業株式会社(奈良県宇陀市)の四代目。学生時代に家業の継承を決意し、大手木材商社で三年間営業後、家業に入社されました。現在は、木材販売や森林施業計画に携わり、山守として森の恵みを最大限引き出すお仕事をされています。「森と暮らしを繋ぐ」がご本人にとって大きなテーマだそうです。

聞き手:須磨佳津江さん
キャスター・ジャーナリスト。NHKアナウンサーからフリーランスへ。「趣味の園芸」を11年担当されたほか、現在は「ラジオ深夜便」のアンカーなどを務め、花や緑と人とのかかわりに関する幅広い分野で活動されています。


須磨:まず、お二人から見た日本の森の現状を聞かせてください。

森本:僕たちは山守として、年間50~60人くらいの山の所有者さんのところで間伐をして森の手入れをさせていただくんですけれども、荒れてる森があるのは事実ですね。荒れてるっていうと、森の手入れがほったらかしにされてるというか、ひょろひょろしていたり、傾いたりしている木が増えてきたりとかですね。あの山だいじょうかなっていうのは出てきます。

須磨:藤井さんのところはどうですか。

藤井:実は今、私が住む糸島市に林業家は一人もいないんです。つまり林業が成り立たない状況になっている中で、市民の人たちの中で森を豊かにしていこうという取り組みが起こっている状況ですね。

森本:森って暮らしにすごく密接に関わっているんです。やっぱり裏山が今にも崩れそうみたいな場所には住めないと思うし、大雨のたびに公民館に避難しなければいけないというのも違う気がする。森と人の暮らしは繋がっていて、そのバランスを保つことが大事だと実感しています。

藤井:すごく共感します。糸島は水源となる森から川を通じて海までが一つの町の中に完結してるんですね。ですから森を豊かにすることで、川を通じて農地が豊かになったり生き物が豊かになったりということが実感しやすいんです。実際に森の活動を通じて、シラウオが帰ってくるというようなことも起きているんですね。

森は守り神!

藤井:でも僕が活動している理由は、どちらかといえば楽しいからなんです。森に行ったら楽しい、気持ちいいというような、精神的・文化的な価値が、森の一番大きな価値だと思うんですね。森は自分が生まれる前からそこにあって、死んだ後もそこにある。そういう自分を超えた大きな存在で、昔であれば神様と言って差し支えないと思うんです。そんな存在に抱かれて生きている精神的安定感と言いますか。

須磨:鎮守の森という言い方がありますけど、森って守り神みたいなところがありますもんね。最近忘れられていますよね。

森本:ここ何十年かで皆さん、「ちょっとそこに森見えてるけど、遠い場所だなあ」みたいな感覚になってると思うんですね。物理的に距離が近いのに、暮らしから遠くなってしまっている。関心を向けてくださる方もいるんですけど、やっぱり僕からしたら、こんなすてきな場所が近くにあるのにもったいないよ、と思います。僕は仕事をしながらも、山に入るとすごく生き生きした感じがするんです。

藤井:僕も同じで、人間って多分DNAレベルで森に喜びを感じる生き物なんだと思っています。昔から人間と森はパートナーとして生きてきましたから。

新しい木の価値、新しい林業

須磨:今全国各地の森が大変な状況になっていて、森を守ろうという機運は感じています。でも理念だけではだめで、継続するには、採算がとれなければと思うんですが・・

森本:僕らの仕事は木の個性を引き出して、世の中にその価値を見つけてあげる役割があります。大きい木は板にすればいい、というのは当然なんですけど、そうじゃないものにも一本一本違う価値があります。僕らは年間4000㎥の間伐を行うんですが、一本一本大きさを調査したりして、この木をどうしようか、どうやって使ってもらおうかという、そこを突き詰めている会社ということですね。

須磨:これまで価値がないとされてきたものが、宝の山にもなるっていうことですよね。

藤井:やっぱり長く続けるためには、特に若い人たちが働ける場所を作る必要があると思いますから、そういう思いで2年前に株式会社を立ち上げました。そちらでは今、耕作放棄地となった果樹園の再生に取り組んでいます。日本は農地が少ないので、森を農地に切り拓いた場所が多いんですが、高齢化によって斜面を登れなくなり放置されていることが多いんです。そういう場所を利用して、森の恵みを生かした農業をしながら、同時に果樹だけでなく他の植生をよみがえらせていく。つまり森づくりの一環として果樹を育てるということをやっています。そういう形で作った果実や木材を販売するということを、少しずつ始めているという感じですね。

須磨:つまり、志だけでなく、採算面でもやっていけている・・

藤井:それはまだまだです。ただ糸島でいうと、営利非営利に関わらず、若い人たちで森に関わっていこうとしている方が結構多いんです。木工作家さんが多かったりとか、農業や養蜂なんかも含めてですね。そういう意味で森に関わる仕事をしている方は沢山いるので、木材だけではない、新しい形の林業を起こすことは可能かなと思います。それを形にしていく途中ですね。

森の中では生き生き!

須磨:多くの人に森の価値を知ってもらうために、どんな活動をされているんですか。

森本:やっぱり森の中で生き生きするっていうことが本質だと思うんです。ですから実際に森の中に入ってもらって、間伐や丸太づくりの体験をしてもらったり、狩猟に興味のある方や農家の方向けにアニマルトラッキングをしてもらったりしています。

須磨:森に入ってもらえば、理屈を超えてそのよさがわかるということ?

森本:そうですね。ちょっと気になるけど1人だし不安だっていう方は、地域や我々のイベントサイトなんかを頑張ってクリックしていただいて。ご自分で森への入り口を開いていただけたらと思います。

藤井:僕たちは森に来てもらうために森以外でも様々な企画をやっているんですけど、例えば川面のアシを刈って、それを果樹園の根元にまいています。今、化学肥料が川に流れて窒素やリンが過多になり、それが原因で海で赤潮が発生するような状況があるんですが、アシはその窒素やリンを吸い上げてくれるので、これを刈り取ることで、循環が生まれる。それを含めて森と海の一体性を感じてもらおうということです。それから、刈り取ったアシで葦船を作ったりもしましたね。

須磨:遊んでますね・・。楽しいのが一番!!

藤井:そうですね。他にもカヤック体験を通じて森を感じてもらったり、間伐材で動物を彫ったりと、日々楽しみながら開発している感じで、子供たちもすごく喜んで参加してくれます。
それから今は企業も興味を持ってくださるところが増えています。大きな企業さんが僕たちの活動の展示をお店に置いてくださったり、社員の方全員で森に来て研修を受けてくださったり、そういうのがいくつも起きていますね。実際森の状態も良くなっているところもあるので、すごく手ごたえは感じています。

写真左:イベントで作った葦船、写真右:子どもたち向けのイベントを行う藤井さん

ブームでは終わりません!

森本:今は時代的に環境が注目されつつあるりますが、僕が危惧しているのは、この注目がブームで終わってしまうことなんです。今大手の企業さんが森に関わるのは、カーボンオフセットやSDGsの影響が大きいと思うんですね。でもSDGsって、2030年くらいまでの目標じゃないですか。ブームで終わってしまえば、その先に荒れる森が増えるのは本当に間違いなくて。
ですから企業さんには長い視点で、一緒に森づくりをしていってほしいなと思います。やっぱり植林のイベントをすることと、実際にその木を何十年も育てていくことは違いますから。ですから本当に長い時間軸の中で関われる方法を、皆さんの中で作っていってほしいなというのが、山守としての願いですね。

藤井:そのお話は僕もすごく共感するところで、SDGsなどで一番重要なのは、どれだけ長いスパンで考えられるかということだと思っています。逆に言うと、今の社会が持続可能でないのは、今の事しか考えていないからなわけですから。本当に100年先も続けられるような社会の在り方を、森から学んで、次の世代、そのまた次の世代へと伝えていかなければならないと思っています。

森本:僕はそれを子供に伝えるときには、リレーだよって教えているんです。前の世代の方々から受け継いだバトンを、今は僕らが守って、次の世代へ渡さなければならない。そうして僕たちが繋いだバトンが100年後も走っているかもしれないって、すごいロマンじゃないですか。

須磨:本当ですね。そのバトンを繋ぐ人が世の中に増えてきて、それがまた刺激になって他の地域にも現れたら、すごくすてきですよね。

「森は幸せの根っこ」

須磨:最後に、森ってこんなに素晴らしいんだよっていう、森の魅力を一言で表すとしたらなんでしょうか。

藤井:僕は森と関わると本当に幸せで、むしろ森が人を幸せにしようと語り掛けてきてくれるような気すらするんです。そんな自分よりも大きな、神々しい存在に向き合える豊かさが魅力なのかなと思います。

須磨:藤井さんの人生にとっては、森は幸せの根っこみたいな感じですね。

森本:すてきなワードですね。森は幸せの根っこ……たまらないですね。僕は仕事が山守なので、森は世代を超えたリレーができる場所というイメージなんです。大きな時間軸のリレーの中に携われる幸せがあって、僕にとっても、森は幸せの根っこです。ですから皆さん、やっぱり本当にもったいないんですよね。日本は自然豊かな場所で、その幸せを享受できるんですから。

須磨:たしかにもったいないなあと思います。お二人の話は、立場は違ってもどこか共通していますよね。お互いにうなずきながら、そうそうっていうお顔がとても印象的でした。お二人とも、今日はすごくいいお話を沢山聞かせていただいてありがとうございました!