もりハグ!広場

コナラと山野草で 地域に風を!

山口県「鹿野の風」福田清治さん(聞き手:須磨佳津江さん)

プロフィールご紹介

福田清治さん
「鹿野の風」プロジェクト(山口県周南市)代表。地域の弱みを強みに変えようと2011年に会を発足させ、「木漏れ日計画」としてコナラの雑木を街中に植え続けてきました。2年前から木製ベンチをコナラの木漏れ日が当たる場所に設置。山野草をメインにした里山オープンガーデンも地域で26の参加があり、盛り上がってきています!

聞き手:須磨佳津江さん
キャスター・ジャーナリスト。NHKアナウンサーからフリーランスへ。「趣味の園芸」を11年担当されたほか、現在は「ラジオ深夜便」のアンカーなどを務め、花や緑と人とのかかわりに関する幅広い分野で活動されています。「花王みんなの森づくり」では、選考委員としてお世話になりました。


須磨:「鹿野の風プロジェクト」では、山口県の、いわゆる中山間地域の山の中で、素敵な里山づくりをされていると聞きました。なぜ、里山づくりを始められたんですか。

福田:鹿野はピーク時で9,000人の人口があった町なのですが、現在の人口は3,000人を切り、10年後には2000人を切ると言われています。これは実に大変なことで、コミュニティも崩壊し、空き家もたくさん増える。まずは交流人口を増やそうとプロジェクトを立ち上げました。

須磨:危機感から始まったことなんですね。

福田:はい。それで10年前にあるイベントを開催したんです。数店のカフェで、地域の夏いちごを使ったスイーツを作って、それを競争で販売するというものでした。すると人が押し寄せまして、それをいいことに2年間やっていたんですが、あるとき地域の方から、ちょっと違うんじゃないのと指摘をいただいたんです。もっと地域の価値を出さなければいけないと……それで、やり方をまるっきり変えたというのが、8年前です。

雑木とカフェとオープンガーデン

須磨:地域らしさを出すにはどうしたらいいか、ということですね。

福田:それで目指し始めたのが、日本の原風景を作り上げようということです。原風景を作り上げて人を感動させれば、都会のお客さんが必ず来られるようになる。そこでまずは地域の価値を高めるために、雑木を植えていこうと。

須磨:山には木が沢山生えているのに、あえて町に雑木を植えようと思ったのはなぜなんですか。

福田:他の地域に雑木で成功した例がありました。熊本県の黒川温泉って、あそこは昔は田んぼしかない無名の温泉地だったんですよ。それがある方が雑木を植えられて原風景を作ってですね、そうするとその旅館だけお客さんが増え始めた。それが周りに広がって、今は地域全体が魅力的になり、予約が取れないほどになったわけです。
私のほうも35年前にこの地域でカフェを開いたんですが、その店の周りに雑木を植えたところ、お客さんが外からいっぱい来られるという現象が起き出しました。それでこれはいいぞということで、他の場所にも雑木、コナラの木を植えていこうと思ったんです。

須磨:コナラって葉っぱが小さめで、風がそよぐと、木漏れ日が綺麗ですよね。つまり雑木で原風景を作ることで都会の人に喜んでもらえる。そうすれば人が来て、結果的に地域が豊かになるだろうという、長期計画なわけですね。

福田:そうです。実はこの地域には山陽自動車道のインターチェンジがありまして、広島と福岡に繋がってるんですね。ですから雑木やカフェが増えれば、都会で非日常や癒しを求められてる方に、必ず来てもらえると思ったんです。しかもカフェは人を呼ぶだけでなく、地域の農作物も集まってくるし、空き家も再生して店に使えば宝になる。いろんな効用があるわけです。実際、しばらくして周辺にカフェがいくつか出来だしました。これから有名なカフェを誘致して、その波及効果でもっとカフェを増やそうとも計画しているんです。

須磨:色々な事を考えてらっしゃるんですね。それから、プロジェクトではオープンガーデンもされているんですよね。

福田:はい。きっかけはあるご老人の作られた森で、17年の時間をかけて、350種の山野草を集めた生きた図鑑のような森を作っていらっしゃるんですね。我々がその保存活動を引き継いでいます。その森を核にして、地域ぐるみのオープンガーデンを始めました。園芸種の花ではなくて、原種の花を使った、素朴ですけど味のあるオープンガーデンです。今では最初の森に加えて個人の庭が25も参加しています。

須磨:たくさん活動をされていますけど、そのアイディアってどこから出てくるんですか。

福田:これはアイディアというより、全部他で見聞きしたことのパクリかもしれません。ただ注意していることとして、必ず自分が話を聞いてワクワクしたときにしか企画書を書かないようにしています。そのワクワクは必ず相手に伝わりますから。

深く強く思えば、伝わるものですね

須磨:今までやってきて、失敗したことや苦しかったことはなかったですか。

福田:8年間、地区の中にコナラの木を植えている間は非常に大変でしたね。よその方の土地に穴を掘って木を植えていくわけですから、説得するのに大変な労力を使います。必要性や成功した事例を説明しながら一つ一つ説得していくしかありませんでした。失敗もしょっちゅうですね。つい1、2年前に、この木は切ってくれと言われたこともありますし。反対する方もいらっしゃるけど、臨機応変にやっていくしかないです。

須磨:他の地域でもやりたい方が出た場合、反対する人を、どうやって説得するかが課題だと思うんですけれど、どんなふうにして人を巻き込んでいらしたんですか。

福田:不思議なことに、やっぱり人間って深く強く思えば、必ずそれが伝わるものですね。まず1人に思いを伝えて、それが段々と横に広がって仲間が増えていく。この10年間はずっとそれを繰り返してきました。ですからやっぱり、時間が味方かなと。
それから住民の方への周知も努力しています。折り込みチラシを作って配って回ったり、定期的な活動報告を発行したりして、思いを共有してもらえるようにしています。
私は、皆さんに伝わっていないとしたら自分の努力不足だと理解するようにしているんですよ。もっと努力して、どういう風にしたら伝わるか、というスタンスでいないと、人には絶対に伝わっていかないと思うんです。生きてる間は成長し続けないと!と思っています。

須磨:樹木と共に成長する・・・素敵ですね!初期のころと比べると、今はどんな状況なんですか。

福田:今は全部で7つのグループができて、いろんな活動を幅広く、同じ目標に向かってやっていますから、ものすごいパワーがあります。仲間だけでなく、町全体で同じ方向を向けるように頑張った甲斐あって、最近ではまかれた種が花開いてきました。例えば昨年は、オープンガーデンのときに野外コンサートを5カ所やりました。他にも40歳前後の若い方々が、服や焼き物を売るようなショップを始めたりして、地域の魅力を発信しようと頑張っています。
それから今、夢の森計画という挑戦をしています。オープンガーデンに土地を提供してくださる方が増えたので、じゃあそこにみんなで参加して、やりたいことをやろうという…。ツリーハウスを作ったり、パン窯を作ったりですね。不特定多数の方が集って活動すれば、そこに新しいコミュニティの場ができて、また新しいことが生まれるかもしれない。地域って実は非常に閉鎖的ですが、新しい空気を入れて変わっていくような、実験的な場所になればいいと思っています。

須磨:素晴らしいですね!!魅力的な場所があると人が集まって、人が集まればコミュニティができる。お話を聞いていると、皆さんニコニコしているようなイメージがわいてきました。きっと地域が変わりましたよね。

福田:皆さんワクワクしていると思いますよ。多分必ず変わってくると思います。今は変化している途上なんです。

町の日常 = オープンガーデン に!

須磨:人を呼ぶという最初の目標については、今どんな状況なんですか。

福田:まだまだ、まだまだです。今はオープンガーデンに来られている方のうち、県外からの方が17%です。それでも観光地でも何でもない場所に、県外から人を呼べるっていうのは、大変な可能性を秘めた現象だと思うんですね。

須磨:鹿野の町全体が日常的にオープンガーデンになることが目標だと伺いましたが、日常がオープンガーデンっていうのは、どういうことなんですか。

福田:2か月間のオープンガーデンをしていたんですが、そうすると庭の持ち主の方はわざわざ来てくださったお客さん方を特別にもてなされるんですね。ただ最終的にはそういう特別なイベントではなくて、この町全体の日常が、いろんなところに花が咲き、すてきな風が流れ、それが一つのオープンガーデン。毎日の日常がすでにオープンガーデンという形になるのが、私のゴールです。コナラの植樹もまだまだ始まったばかりです。今、全部で89本の雑木を植えたんですが、最終的には、町全体が木漏れ日の町と呼ばれるような場所になってほしいですね。

須磨:福田さんがここまで情熱を注ぐ、その心は何ですか。

福田:やっぱり、限りなくこの地域を愛しているということかもしれません。それから今からの社会、多分どこでも美しい原風景が無くなっていってしまう。同時に空き家がどんどん増えて廃屋になり、これは日本の社会問題になるでしょう。そういう悲しい日本になってしまうと、次の世代がやっぱりかわいそうだと思うんですよ。だから希望を次の世代に渡したい。せめてここの地域だけでも希望をつなげたいと思ってやっています。他の地域にも何か対策を打ってほしいですから、我々がそのヒントになれればいいなと思っています。我々は自分たちの労力だけでやっていますから、もし成功すれば、他の地域にも応用が利く話だと思っているんですよ。

須磨:原風景を守る、そして他の困っている地域のモデルにもなろうということなんですね。他にも鹿野のような地域が出てきて、全国に仲間のネットワークができたら、とてもすてきなことですね。諦めず、ぶれず、信念と愛をもって行動する・・・福田さんの情熱に感動しました。本当にありがとうございました。