もりハグ!広場
森のコミュニティセンターづくり
(苫東・和みの森運営協議会)
2007年に開催された第58回全国植樹祭の跡地「和みの森」をどのように生かしていくか検討するために、まずは世間でよく言われる「国民参加の森づくり」「森づくりボランティアの獲得」と言いながら人を集めるのは無理だろう、基本的に「なんで人の土地を手入れしなきゃいけないの」という覚めた感覚を持つ人の方が多いのは容易に想像でき、そんな簡単ではないだろうという市場分析をしました。その上で、森づくりをするために人が集めるのではなく、人が集い、楽しむための方法として森づくりという「手法」を使う、という逆説的な理念を持った場所にしたら良いのではないか、という仮説を導き出し、「森のコミュニティセンターへようこそ」というコンセプトが誕生しました。現在は「コミもり」という新語を作り、植樹祭主催者である北海道、地元自治体の苫小牧市を始め、公益社団法人北海道森と緑の会、土地を提供して頂いている㈱苫東、そして地元の市民団体が協働して運営する「苫東・和みの森運営協議会」の、森づくり活動を展開しています。
しかしながら、やると決めた活動でありながら、当協議会には当初1円の予算もない状態からの運営スタートでした。市民団体内に設置された事務局も別に本業を抱えながらの運営であるため、そんなにコストをかけられないという事情もあり「まあ月に一度ぐらいなら森に行けるべさ」というつぶやきをそのままタイトルにした「月に一度は森づくり!」を主催事業として、あんまり頑張らないという軽い気持ちで、集まれる人たちだけで木道を製作したり、枯れ木を集めて森の中を整理する、という名目で端材や枯れ木を燃やしてお茶を沸かしたりおやつを焼いて食べる、という森の中での時間を過ごしていました。
車イスで森の散策出来る木道
その「ゆるさ」がかえって良かったのか、気がつけば「チェーンソーバリバリの森づくり専門ボランティア」だけではなく、小さな子どもの手を引きながら「おやつ食べれるって聞いたんですけど」とおっかなびっくりやってくる親子連れが多く訪れるようになりました。そんな言わば「森の初心者」たちが、最初に取り組んだのが「木道づくり」です。北海道の太平洋側に多い「平坦な森」という特性を生かし、高齢者や障がいのある方が、森林に親しむことができるように、ということで、まず車イスで森の散策出来る木道の製作に取りかかりました。丸太を半割にした材料を電動ドリルと木ねじで止め、2m程度のパレットを作成し、徐々に森の中に敷き詰めるという作業に老若男女を問わず関わって頂きました。普段使うことのない電動ドリルやノコギリに触れられるという面白さが、小さな子どもや特にお母さんたちに作業ではなく「面白い遊び」として受け入れられ、気がつけば森を半周できる180mのコースが10月に完成するメドとなりました。
林業実習体験の森が、アイデア創出の森へ
いろんな人を誘いあって遊びながら森に通い続けた結果、元参加者だった方が新たに来訪する参加者に情報や活動を提供するという自律的な展開が見られるようになりました。そんな噂が噂を呼び、最近では中学校の宿泊学習のツアーコースの一環として、1学校あたり約200名が林業体験をしに和みの森に来るようになり、その時の各活動を先述の参加者の皆さんがかつて自分の子どもたちにやらせていた活動・・・木を切ったり、薪を割ったりするようなことを中学生に提供し、そこでお預かりする利用料を運営費に充てる、というモデルを構築することとなりました。さらには、そこで作られた薪を地元の銭湯やピザ屋に運び、燃料として提供する代わりに無料チケットを還元してもらうという「花王・みんなの森づくり活動助成」を受けた「ありがとうチケットプロジェクト」も発動し、その成果を東京で開かれた環境省主催「ESD KIDS FES!!」において2人の小学生が活動を発表したところ、グランプリの環境大臣賞を受賞するなど、森に人を呼ぶだけではなく、森の中で生まれたノウハウを積極的に町側へと発信ささせる体制も生まれました。このように、森での活動をコミュニティ再構築の場として開放した結果、単なる会員活動だけではなくスポーツ少年団、海外からの留学生(高校生)の研修や、中国で自然体験活動を展開したい方々の視察、自然農法、幼稚園経営者など多様な利用者が増える結果となりました。
第44回全国育樹祭会場に選定
そんなふうに、言ってみてばそれほど大きなモチベーションを掲げてきたわけではない「苫東・和みの森」の活動がゆるゆると継続された結果、2022年の10月に「第44回全国育樹祭」のお手入れ会場として選定され、なんと再び皇族の方をお招きすることとなりました。新型コロナ感染対策として、実際はオンライン出演となりましたが、和みの森での活動に小さな頃から関わってきた子どもたちが、秋篠宮ご夫妻に対して苫東・和みの森の説明をしたり、質問に答えるような場面に登用されるなど、言ってみれば森が育てた子どもたちが大きな役割を果たすこととなりました。おもしろいものです。植樹祭から育樹祭までの間には、コロナだけではなく、大震災や紛争など、いろんな出来事がありましたが、今思えば、苫東・和みの森に関わったことで、森ではなく多くの人々の人生を変えるきっかけを作ってきたような気がします。
森ではなく、コミュニティを求めている
このような活動を振り返ると、ひょっとしたら人は森そのものではなく「人と出会い、たくさんおしゃべりをすること」「『そうだよね』って同意してくれる仲間がいる」というような、コミュニティあるいは居場所を求めているような気がしてなりません。でもそんなことをおおっぴらに言うことは気恥ずかしいわけであり、そういう意味では「森の中でなんかいいことをしよう」というのは、ともすれば部屋の中に閉じこもりがちな人々を社会に引き出すきっかけとしてちょうどよい「正義」なのかもしれません。