もりハグ!広場
「もりハグ!交流会2023」実施報告①
【第1部】セミナー:山形大学農学部 菊池俊一先生
もりハグ!開設1年目である2022年度の締めくくりとして、2023年2月2日の木曜日に、ご登録いただいている団体の皆様を対象にしたオンラインでの講習会・交流会「もりハグ!交流会2023」を実施しました。
市民が守る緑に関するセミナーに加え、実際に活動されている団体さんから報告を頂き、意見交換を行うことで、「緑」を活用し・まもり・育む同士である皆さんの交流や情報交換の契機となり、活動や運営の一助となることを目的に開催し、合計28団体の皆さんにご参加いただく事ができました。
(Text:もりハグ!事務局 田口)
第一部は、鶴岡市にある山形大学農学部の菊池俊一先生にお願いして、「つなぐ森づくり つながる森づくり」というタイトルでご講演をいただきました。
先生は、森林科学全般、特に動的環境に生きる植物の生態・動態を専門に研究を進めており、教育研究で大学生と触れ合う中、学生の身近な自然への認識や子どものころからの自然とのふれあいの少なさに気づいたことから、市民の広い層からの参加による森づくり活動に取り組んでいらっしゃいます。
1)グリーンインフラストラクチャーについて
まず、先生からグリーンインフラストラクチャー、略してグリーンインフラについてのお話がありました。
グリーンインフラとは「自然の持つ多機能性やしなやかな回復能力などの特性を社会における様々な課題解決に賢く活用しよう」という考え方で、国交省がリードしている分野です。
グリーンインフラの考え方を読み解くと、人工的なものではなく、広範囲な自然に備わる機能を賢く用いて活かすことなので、皆さんの活動である「森づくり」は「社会的共通資本の維持管理・創造」と位置づけられます。
2)森づくりがつなぐもの
ここからは先生ご自身の活動を紹介しつつ、森づくりなどの活動が何をつないでいるのか、ということをお話しいただきました。
① 庄内の里山である海岸林
まずは庄内の海岸林の保全についてお話しいただきました。庄内空港周辺のクロマツ海岸林(約2,500ha)は、かつて海岸の砂が家に吹き込み、その砂を箱で担いで砂浜に返す、という暮らしをしていた地域において、砂の被害から暮らしを守るべく、300年も前から造成が始められた海岸林だそうです。しかし最近は、松くい虫の問題や狭い耕地防風林の更新の難しさ、手入れ不足による過密化などの問題が生じています。そこで、海岸林をどう守り育てればいいのか、ということを命題に「出羽庄内公益の森づくりを考える会」という団体が行政機関や森づくり・自然保護団体などで作られたそうです。現在では、地域の共有財産であるという思いから、教育機関や市民団体等の多様な主体が一緒になり海岸林保全のための情報や意見を交換し、保育作業や植樹を行っているそうです。庄内の里山である海岸林は、周辺地域一帯の人をつなぎつつ、地域の歴史を未来につないでいるのですね。
② 市民による里山づくり
次に市民主体の里山づくりということで、鶴岡市の森林公園ケヤキの森(コナラを中心とした二次林)を舞台に展開する「ドングリプロジェクト」を紹介いただきました。活動内容は、二次林内でドングリを拾い、竹林整備で伐採した竹を活用したポットにそのドングリを植え、各家庭に持ち帰って苗を育て、2~3年後に公園内の苗畑に移植して育成し、森に植え返していく、という内容だそうです。同様の活動は、熊野長峰や、鶴岡市の水がめである月山ダムでも実施されており、一般市民の参加を募るのはもちろん、次世代育成ということで、近隣の小学校の校外学習として取り組んでもらっているそうです。こういった経験を幼い頃からすることは、身近な緑を感じる感覚を育み、人と森をつなげ、未来の森の担い手育成という点で、時間もつなげていきます。
③ 河川環境の保全・再生
次に河川環境の保全活動を紹介いただきました。活動の舞台である西別川は、北海道の東側、根室湾にそそぐ、水面も真みどりに見えるほどのバイカモの群生地で、5月~10月という長期間、川のどこかしらで花が咲いているような場所だったそうです。さぞかし美しい景観だったでしょうね。しかし、近年水鳥や鹿による食害などでその数は減少し、バイカモを生息の場としていた水生昆虫を始め、それを捕食する魚類、さらにそれを餌とする西別川生態系の頂点であるシマフクロウまで影響が及びかねない状態に陥りました。そのため、危機感を感じた地元住民によるバイカモを守り育てる試みが開始されました。バイカモを食害から守る実験としてネットを張ったり、バイカモを川底に活着させる移植実験を行ったり、昔の河畔林・渓畔林の景観を取り戻すべく、シマフクロウ保護活動団体の呼びかけで、市民は植樹を続けています。
以上のように、この活動の中では短期・中期・長期的な活動を合わせてやっていることが特徴です。ここでいう短期的な活動とは、食害防止のネットを張ること。次に中期的な活動としてはバイカモの移植。最後に長期的な活動としては営農行為で失われた渓畔林・湿地の育成・造成となります。これらを組み合わせて行っていることで、長期間かかる根本的な問題解決と、短期的な目に見える成果が得られ、活動の活力が得られるのではないでしょうか。
④ 登山者による山岳環境の保全
最後に山の話です。山形・福島・新潟にまたがる飯豊連峰や朝日連峰は原始的な景観も残る山々。この場所でも日本全国の山々同様に登山道が拡幅したり、複線化するなどの荒廃が進んでいるそうです。この原因は、踏み固められた登山道に雨が降ると川となって侵食が進むことや、凍上や凍結融解現象が繰り返されて地面が柔らかく不安定になることだそう。そこを人が歩くことで、荒廃の速度がさらに速まってしまうのです。
この飯豊連峰・朝日連峰では、それを憂いた登山者が環境省と共に登山道の整備方針を定めたそうです。ここでは、定期的に全体会合を実施して情報共有をし、さらに関係者一同で合同保全作業を実施しています。みんなで荒廃の原因を考えながら同じ作業をして汗を流す、ということが大切なんだそうです。さらに、この協働団体は特殊な技術の開発と若手育成のために技術部会を組織しているそうです。この活動は地域住民はもちろん、登山という共通の趣味を持った全国の登山者がつながることにもなりますね。
3)「つなぐ森づくり」は何と何を繋ぐのか?
改めて、これまでの具体例をまとめると「つなぐ森づくり」は以下のようなものを繋ぐ、と菊池先生はおっしゃいます。
①人と人:交流がうまれる。
②人と森:人と森をつなげれば、森の状況が見える。見て、関わることで、森への気づきを経て、積極的に森に関わろうという気持ちになる。
③森と森:森と森をつなぐことで野生動物の移動、野生植物の繁殖などが可能になり、健全な生態系が保持される。
④ 過去と未来という時間軸を繋ぐ:庄内の海岸林は、300年という時を使いながら今現在のクロマツ海岸林を形成しており、先人たちがつないだものを意識し、森の持続可能性を考えることになる。
最後に、菊池先生は「つなぐ森づくり、つながる森づくり、ということは、各地、各方面で起きている分断を修繕しているのではないかと思う。だからこそ、このつながること、つなぐことが重要なのではないでしょうか。」とおっしゃっていました。
これまで経済成長に伴い分断されてきた人と人の繋がりや人と自然の繋がり、自然同士の繋がり、そして過去と未来の繋がり、こういった様々な事柄をもう一度つなぎ直し、育むことができるのが皆さんが活動されている森やみどりの中なのだなと改めて感じ、緑の効能や役割が重視されていくという流れの中で、さらに森の役割や価値は大切になるのだろうなと感じました。
そんななかで、団体さん同士が繋がることは、気づきや新たな挑戦のきっかけとなり、大切な共通資産である緑を育んでいく皆さんの活動の活力に繋がるのではないか、と事務局としては願いつつ、その尊い活動が少しでも長く持続していく一助となれればと、改めて強く思うのでした。
またお話しの最後には、もりハグ!各団体さまにご協力いただいた、菊池研究室の中家さんの卒論アンケートの中間報告もいただきました。
中家さん:「今回はご協力を頂きまして、たくさんのアンケートの回収が出来ました。このような森林ボランティアの情報共有サイトがもっと活性化されて、それが日本の森林ボランティアをより良い方向へもっていけるのではないかと考えて研究を行っています。これからも解析を頑張っていきたいです。」